温故知新



「十代、デュエルしようぜ!」
「ん?」
 夕飯の片付けが終わるや否や「デュエル! デュエル!」といつになくテンションの高いヨハンが急かしてくる。今週は俺が食事と片付け当番だからヨハンに余裕はあっても、俺にはあんまりない。
「今片付けるから、待てって」
「おう! じゃあ手伝うからさ、早くやろうぜ!」
 そう言ってさっさと食器を片付け始めたヨハンに、俺は首をかしげるばかりだ。

 ……こんなにテンション高くて、何考えてるんだ?


「よし! 終了!」
 あっさりと片付いた……もとから食器や調理器具だって少ないんだから当然だけど……台所を出て、リビングに向かう。モノを極力置かないようにしている部屋はこざっぱりというよりは殺風景で、でも寂しげではなかった。
「ほらほら十代、さっさと始めるぞ!」
「わかったから、待ってろって。じゃあ、今日はどんな条件でデュエルする?」
 ヨハンの背後には宝玉獣たちが控え、俺の背後にはハネクリボーとユベルが動向を見守ろうとしている。
 ここで出されるデュエルの条件はいろいろで、カウンター罠禁止、レベル5以上のモンスター禁止、新パックが出たら最初の8パックでデッキを組む、とか、ほとんどはその場での思いつきだ。条件決めるだけでもけっこう時間をとることもあるけど、今日のヨハンはあらかじめ条件を決めていたようだ。
「じゃあ、今のデッキより前のデッキにしようぜ!」
 決定!
 そう言ってそそくさとカードを眺め始めたヨハンに、俺はまたも首をかしげた。
 ……今のデッキより、前のデッキ? どれくらい前のデッキだろう。
 とりあえず、アカデミアに入学する前くらいかな、と考えてデッキの調整を始める。ネオスとネオスペーシアンたちはまず出せないだろ、ヒーローたちはまだデッキに入っているから、サポートカードを多めに入れておくか。
 うん、このデッキで、入学試験やったんだよな……! クロノス先生、さっすが強かったよなぁ! あのころのワクワクを思い出すと今でも胸が熱くなる。そういえば先生、まだアカデミアにいるんだっけ。こんどこっそり行ってみようかな。
『クリクリ〜』
『……僕の出番はなしかい?』
 喜色満面のハネクリボーとは対照的に、ユベルはむくれてしまったけど、まぁいいか。
『まぁ、僕は見学に回らせて貰うけど、楽しみだねぇ』
 フフン、と鼻で笑ってくるユベル。なんだよ、いったい。
「俺は出来たぜ」
「ああ、俺もだ。……あ、そうだ。先攻は譲るぜ」
 楽しげに先攻を譲ってきたヨハンに、俺はやっぱり違和感を感じる。……何か企んでたりしないか?
「「デュエル!」」
 決闘を始まる宣言をすれば、そんなことにかまうことはできない。するだけ野暮だ。カードをドローして、ひいたカードに小さくガッツポーズをする。
「手札のフェザーマンとバーストレディを融合! 現れろ、フレイムウィングマン!」
 さっそく現れてくれた、俺のフェイバリットヒーローに、ヨハンも「きたきたあっ!」と歓声を上げた。
「さすが十代だな。最初からそう来たか! 相変わらず容赦ないぜ!」
「まぁな!」
 魔法カードを伏せてターンを終了する。
 さて、ヨハンはどう来るだろう。宝玉獣たちの戦術は俺には計り知れないものがある。たまにデッキ交換してデュエルすることもあるけど、そのたびにアメジスト・キャットに怒られたりしているのだ。……なんでプレイヤーは俺なのに、俺に爪攻撃してくるんだろう。
「じゃ、俺のターンだなっ。ドロー!」
 カードをドローしたヨハンは、いつになく真剣な顔をしながら、それでも楽しそうだ。
 ヨハンとのデュエルが楽しいのって、ヨハンからデュエルが楽しいっていうのがものすごく伝わってくるからなんだと思う。出会った頃からずっとそうだったし、きっとこれからも変わりはないんだろう。
「じゃ、俺はこれでいくぜ!」
 ばん、と攻撃表示で召喚したモンスターは、俺が想像したものとは全然違っていた。

「……あれ?」
 てっきり、アメジスト・キャットが来ると思っていたのに。
 それどころか。
「宝玉獣じゃ、ない?」
 ヨハンが宝玉獣以外のモンスターを召喚したのに驚いて固まった俺に、ヨハンが「何驚いてんだよ」と声をかけてきた。
「言っただろ、前のデッキだって。だから十代もネオスがいないデッキで来たんだろ?」
 そりゃ、そうだけど。……ん?
 そういえば。
「じゃあ、ヨハンのデッキは……」
「宝玉獣たちに出会う前のデッキさ」
 考えてみれば、ヨハンといえば宝玉獣に選ばれたって言われてるけど、その前からデュエリストだったわけで。宝玉獣に出会う前にも、ちゃんとデッキを持っていたわけで。
『残念だが、今回我々はただの見物なんだよ、十代』
『本当に残念だわ』
 苦笑するサファイア・ペガサスに、心底残念そうなアメジスト・キャット。ヨハンの肩にはルビーが定位置にいて、楽しそうにヨハンのカードをのぞいている。

 ……どうしよう。すっげぇワクワクする!
 どんなカードを出してくるんだろう。どんなモンスターがいて、どんなコンボを組んでくるんだろう。
 宝玉獣に出会う前のヨハンって、どんな奴だったんだろう!

「俺にとって大事な友達だから、十代とデュエルさせてやりたかったんだよ」
 俺と同じ……きっと俺以上にワクワクしてるヨハンが、本当に楽しそうに……嬉しそうにつぶやくから、俺もつられて笑った。
「俺だって、ヨハンの友達とデュエルしたいぜ! さ、次はどうするんだ!?」
 俺の即答に、ヨハンは一瞬固まったけど、すぐに復活した。
「次は、この魔法カードを装備するぜ!」
「げ、攻撃力500アップ!? って、嘘だろぉ!?」
「嘘じゃないぜ! で、もちろん、フレイムウィングマンを攻撃するに決まってるじゃんか!」

 ヨハンとのデュエルは、ヨハンが宝玉獣を使っていなくてもやっぱりとても楽しくて。
 それはやっぱり、ヨハンが昔からデュエルを楽しんでいたんだなってことが伝わってきて、俺もそうだったんだよなぁと思い出させてくれた。
 それに、デッキは違っても、やっぱりヨハンのデッキはヨハンらしくて。
「あれ、もしかして、除去カード」
「入ってないぜ、当然!」
 発動された魔法カードを見ながら問えば、すぐに返事が返ってきた。予想してたとおりの答えだった。
「そっかぁ!」
 それが嬉しくて、俺もカードをドローする手に気合いが入る。

 こうやって、俺はヨハンのデッキからヨハンのことを知っていくのだろう。
 そうだ、こういうのって、きっと。

「温故知新ってやつだな」
 俺の口から出てきた言葉に、ヨハンははた、と止まった。
「どうしたんだよ、ヨハン?」
「いや、十代の口から四字熟語が出てくるとは思わなくて」
 ヨハンのやつ、俺よりちょっと難しいこと知ってるからって、それはないだろ?
「はぁ? 失礼だな。俺だって四字熟語くらいは知ってるぞ! 一石二鳥とか、焼肉定食とか」
「……弱肉強食だろ」
 俺の言い間違いにすかさず修正が入る。
 精霊達が声をあげて笑って、俺は居心地が悪くなるしかなかった。
『十代、気にしちゃだめよ。そこがあなたのいいところなんだから』
 アメジスト・キャット。全然フォローになってないぞ。



久々の4期終了後設定ですが、十代が妙にノリノリです。
宝玉獣に出会う前のヨハンのデッキってどんなのだろうと思いつつ書きました。
そしてデッキはぼかしました(笑)
そのへんは人それぞれだと思うのでお好きに想像してください←逃亡(080908)
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