購買部で買ってきた袋を振り回しながら部屋のドアを開けると、案の定先客がいた。
「十代、おかえり」
「ああただいま……って、ここ俺の部屋じゃん」
「いいじゃないか。どうせ俺も帰ってくるのはここだしさ」
よ、と手を挙げてテーブルに広げていたカードを片付けているのは、すっかりこの部屋の主になってしまった留学生だ。
「なんだ、デッキ調整してたのか? 続けても良かったのに」
「いや、十代来るまでの暇つぶしだったから」
とたんに、沈黙が降りる。
どうも、なんか、おかしい。最近の俺たちは、なんだか少しだけ。
キスするようになってから、どうしてももどかしいものを感じる。
今までは普通でいられたけど、少しだけ遠ざかったのか近づいたのかわからない距離感。
それが気になってたから、俺もちょっと考えたことがあって、そのためのアイテムがこの購買の袋の中に入っているのだ。
ただ、これをどう切り出すかを悩んでるんだけど。
「お、十代。ソレ、パックか?」
俺の心を読んだようにヨハンに袋の中身を問われて、どきりとする。たまにヨハンが怖くなるんだよな……。
でも、これはチャンスかもしれない。
「いや、チョコなんだけどさ。……一緒に食わねえ?」
俺がどきどきしてるってのは内緒でヨハンに提案すると、何も知らないヨハンはあっさりと、
「おう、食う食う! チョコ大好きだぜ」
楽しげに乗ってきた。
俺が用意したチョコは、俺の大好きな赤い箱に入ったチョコだった。細いビスケットに持ち手以外にチョコレートがコーティングされている、小さい頃からの好物だ。
「こいつ知ってる。ミカドだよな」
「ミカド? ……これ、ポッキーだぞ」
ヨハンの口から出てきた単語に俺は首をかしげる。ところ変われば名前も変わるっていうけど、ヨハンとこのポッキーはカッコイイ名前だなぁ。
「ポッキー……ふぅん、なるほど。ま、いいや。もらうぞ」
差し出す前からヨハンが取りだそうとするのを止めて、まずは俺が取り出す。
「ほら」
「さんきゅー」
差し出すと、何の疑問も抱かずに受け取ろうとするヨハンの指をすり抜けて、ヨハンの口にポッキーを突っ込む。
「んぐっ!?」
ヨハンが思わずポッキーを歯で押さえたのを確認して、俺も持ち手部分に口を近づける。
そのまま、ばりばりとビスケットのところを食べ始めて、呆然とするヨハンの唇に到達した。
そのままちゅ、と口づける。挟まれたままのポッキーを舌でヨハンの口の中に押し込んで、唇を離す。チョコの甘みと、ビスケットのちょっともっさりとした食感と、ヨハンの唇の感触が妙に生々しい。
でも、こうしないと俺からキスなんてできないんだよ。
ヨハンは俺にためらいなくキスしてくるけど、俺にはまだそこまではできない。
でも、ヨハンからもらってばかりってのもいやだから、俺なりにどうやって返せるかって考えたんだ。
――それが、この一方的なポッキーゲームだったわけだけど。
ヨハンはちょっと驚いた顔をしていたけれど、すぐに俺の手からポッキーの箱をとりあげた。
「十代、ポッキーゲームなら最初からちゃんと言え! ……ていうか、ポッキーゲームってこういう意味かよ」
「げ、何で知ってんだよ!?」
知らないと思ってたのに! と慌てる俺の口にチョコが突っ込まれる。
「ほら、ちゃんと食べないと俺が全部食っちまうぞ」
ヨハンの口がビスケットのところを食むのが見えて、俺はすこしずつチョコを溶かすように舐める。
お互いに遠慮なくなった唇が触れて、チョコの味がじんわりとお互いの唇から伝わった。
「ところでさ、十代。俺の国でポッキーって、意味ちょーっと微妙なんだよな」
ポッキーの空き箱のスペルをなぞりながら、ヨハンが意味ありげに笑う。
「微妙って?」
「ああ。ココの意味があんの」
と、ヨハンの手がいつになく無遠慮に俺の股間に伸びた。
「ぎゃ、どこ触ってんだよ!?」
「だから、ソコ。……ポッキーゲームって女子生徒の口から聞いたときは、どんな大胆なことするのかよって思った」
なんでそんな会話を聞いてるんだよ、と問いただしたい気持ちになったけど、ヨハン的な意味をなんとなく把握して俺は慌てて話題をすりかえた。
「つまり、ヨハン的に言えばコレは『ミカドゲーム』ってことか?」
「……それは別にあるんだけど。まぁいっか」
とりあえず、もうポッキーゲームなんて絶対にするもんか!
先日のチャットのおみやげ話でした。
基本おみやげ話はアップしないのですが、コレは日付的にちょうどいいのでアップ。
ヨーロッパではポッキーって言わないと教えてくださった某方には感謝ですw