ちゅ、と唇が触れてきた。
少しかさついた唇どうしが触れあって、乾いた感触なのに、どこか柔らかい。
内緒で薄く開いた目には、ヨハンの長いまつげがわずかに揺れているのが映っていた。って。
「十代、ちゃんと目を閉じろよ」
唇がわずかに離れて、ヨハンが文句を言ってくる。そりゃ、いくら俺でもマナー違反だってわかってるよ。でもさ、
「ヨハンこそ目を閉じろよ」
「お前が言うなよ」
言い合う文句まで絡み合ってしまうほどの距離。
なんだかおかしくなって、文句を言っていた唇から思わず噴きだした小さな笑い声。それから、もう一度唇ががっついてくる。わずかに濡れた唇が俺の唇を包み込むように吸い付いてきて、俺はもっと近づけるように腕をヨハンの首に回した。
別にその気になったわけじゃない。
ただ、なんとなくキスをしたくなっただけだ。
俺がそう思っていたら、ヨハンもそう思っていたらしい。いきなり近づいてきた唇に目を閉じて応えて、それからいつのまにかベッドに押し倒されていた。……でも、キスより先をしたいわけじゃないって、わかってんのかな?
「十代、ちゃんと目ぇ閉じてろよ」
やたら念押しするヨハンに首を傾げると、ヨハンは俺の腕が絡まってるからか、やりにくそうに頭を掻いた。
「あ、わりぃ」
「いや、離れるなって」
腕を下ろそうとする俺を制して、ヨハンはやっぱり困った顔をした。
「だってさ、目を開けてたら先までやりたくなるだろ」
「ヨハンが目を閉じればいいだろ」
「お前にだけ見られるのは不公平だろー」
なんだそりゃ。
「俺ばっかり余裕無いの見られるのはさ、やっぱ嫌なわけ」
俺の顔に出ていた問いに答えて、ヨハンの顔が近づいてくる。
そんな余裕がないようには見えないけど。むしろいつも余裕がないのは俺のほうだ。心地よくて、だんだんどろどろにされてわけがわからなくなっていく。ヨハンとじゃなかったら、こんな得体の知れないことをやりたいなんてきっと思わないだろう。
「じゅーだい」
目を閉じろよ、と言いながらヨハンの緑の目が閉じられる。
「しょうがねえなぁ」
ヨハンが俺の余裕無い顔を見ないようにしてくれてるのに、俺がそうしないわけにはいかねえか。
俺も目を閉じると、ようやくヨハンの唇が降りてきた。そのまま、ゆるやかに溶かされる。
遠慮がちに入り込んできた舌を強引に絡め取ろうとして、やっぱりうまくいかなかった。俺、不器用だもんなぁ。
「……十代」
舌が出て行って、唇がまた離れる。それでも触れあいそうな距離で名前を呼ばれて、俺は言われたとおりに目を閉じたまま、「なんだよ?」とヨハンの次の言葉を待った。
「何すんだよ」
ヨハンのむくれた声。何で俺がこんな声出されなくちゃいけないんだよ。
「何って、ヨハンの真似だろ」
「そういうことは真似しなくていいから」
むくれてるわりには、吸い付いてくる唇はなんかしつこい。
そいつから逃げながら……言いたいことくらい言わせてくれ……俺はヨハンの首に回していた片腕をほどいて、ヨハンの頬を軽くつねった。
「真似くらいしたっていいだろー?」
「ダメ。変なこと覚えちゃダメだろ」
「……変なことだったのかよ……」
「ああもう黙れって!」
頬をつねっていた手をはぎ取られて、そのまま指が絡め取られる。触れてくる唇はしばらく離れそうもない。
こうされるのも好きなんだから、「変なこと」とか言うなよな。って抗議できるのはいつになったらだろう?
顔から火がでるくらい恥ずかしかったです!
タイトルも考えつかないので無題でいいや。