指を絡ませる

 晴れた日曜日の公園は穏やかな日差しと絶え間ない声にあふれていた。
 遊具などはないが、親子連れやペット連れが思い思いに寛いだり遊んだりしている空間。ベンチでは昼食をとる者も少なくない。
「うん、うまいな」
「ああ」
 買ってきたハンバーガーを食べながら、俺は目の前の風景をぼんやり眺めていた。聞こえてくる言葉はずっとなじみのあったものだ。買ってきたハンバーガーのレシートもちゃんと日本語でメニューが書かれている。
 ここは日本なのだ。


 世界中のあちこちを旅しているけど、まだまだ旅の終わりは見えない。カードの精霊たちの姿はこの公園の中でも見えていて、デュエルをする子供達の傍らで動向を見守っていたりしている。こちらと目があった精霊には軽く手を振ったら笑顔を返された。
「のどかだなぁ」
 もぐもぐんぐんぐ。
「和風のハンバーガーうまい」
 日本に来たらまずこれ、と思う食べ物の一つがこれだったりする。同じものを頼んだヨハンも頷きながら食べていた。まだ袋の中にはいくつかのハンバーガーが入っている。ライスバーガーを初めて見たヨハンが感動して全種買いをしたけど、食べきれるのか?
 交わされる言葉も、この場を流れる空気も、やっぱり懐かしい。
「やっぱり日本は落ち着くなぁ」
 思わず無意識にそんなことを呟いて、紙コップの中のジュースを飲んだ。
 さきほど視線を向けていた先のデュエルは、ひとまず勝負がついたらしい。食事をしながらぼんやりと眺めている俺たちの前で、デュエルをしていた子供達は別れていった。
「なあ、十代」
 そんな子供達を眺めていたヨハンが、首をかしげて問いかけてきた。
「さっきあの子たちがやってたこれ、なんだ?」
 小指を立てて聞いてくるさまは、立てる指が違っていたらケンカ売ってると勘違いされそうだ。それくらい難しい顔をしていた。もちろん、ヨハンにはそんな意図はないんだろうけど。だから早いとこ疑問を解決してやろうと思う。
「あれは、ゆびきりだよ」
「ゆびきり?」

 小指と小指を絡ませて、「ウソついたら針千本飲ます」と物騒なことを言っていた子供達。行動の真意が見えない人にはどれだけ物騒に見えたことだろう。

「ウソつかないってくらい強い約束をしてたんだ」
 またデュエルしようね、という約束。
「え、それ怖くないか? ウソついたら針を1000本も飲むのか? 痛いんじゃないのか?」
「実際に飲むわけじゃないから」
 言葉のあや、というやつだ。
「それくらい、本気でする約束ってことだろ」
 へぇ、とヨハンは納得したのかしないのか曖昧な反応をして、袋からライスバーガーを取りだそうと手を突っ込む。でも、取り出された手には何も握られていなかった。そして、

「じゃあ、ほら」

 ずい、とヨハンの小指がこちらに向けられた。……なんだよ、いったい。
「怖いんじゃないのか?」
 苦笑して問いかけると、ヨハンは静かに首を振った。
「針1000本飲む覚悟はしてる。……それとも十代には、そういう覚悟はないってことか?」


 同じ道を歩んでいく、覚悟。それを試されているというのはすぐにわかった。


「馬鹿だなぁ、ヨハンは」
「はぁ?」
 ジュースを飲みながら言った俺に、ヨハンは「真面目に聞けよ!」と俺から紙コップを奪ってストローを口に含んで。
「おまっ!」
 ずずーっという盛大に行儀悪い音を立てて全部飲み干してしまった。……俺のジュース……。

「そんなの、言うまでもないと思ってたんだよ」

 でもヨハンがちょっとでも不安に思うのなら、とジュースは諦めてヨハンの小指に自分のそれを絡ませた。
「ゆびきりげんまん、ウソついたら……お前が欲しいもんをやるよ。だから、お前も俺が欲しいもんをくれよ?」
「マジで?」
 欲しいもん、という単語にヨハンが反応する。
「……でもそれじゃあ、針1000本飲む覚悟してまで約束しなくてもいいんだけど」
「だから、馬鹿だなぁって言ったんだよ」


 ――欲しいものは「お互いの隣」で、「指を絡ませられる距離」
 結局、離れるつもりはないんだって、最初からわかれよ、馬鹿。

1月のうちにアップしたかったのに遅刻…orz
というわけでお詫びに気持ち糖度を高めにしてみたつもりですが微妙すぎて間違えて塩入れた感がありますね。