シーツにくるまる

 すこぶる天気が良くて、思いっきりシーツを洗って布団を干すと、シーツからも布団からもひだまりのにおいがただよっていた。

「おお、ふかふかだなぁ」
 十代と布団をひとつずつ持ってレッド寮の階段をのぼる。ふかふかで暖かい敷き布団に頬をすりよせるとついうっかり眠くなってしまいそうだった。
「やっぱり布団干すのはいいよなぁ」
「今日こそは布団使うぞ」
「いつもデュエルして床に雑魚寝だもんな」
 二人でそんな決意を語りながらレッド寮の階段をのぼる。だんだん風に肌寒いものが混じってきているので、まだ暖かい布団はものすごく魅力的だった。
「じゃ、次はシーツを取り込むか」
「おう」
 布団をベッドに敷いて、今度はシーツをとりにいく。布団よりあったかくはないけどやっぱりふわふわとして思わずほおずりしたくなった。
「おお……くるまりてえ」
 物干し竿に干されたままのシーツを両手を広げてぎゅっと抱きしめる。そうしてると、なんとなく抱きしめられているような気になってくるから不思議だ。
「くるまるって、シーツじゃくるまってもあったかくないだろう」
 なんか呆れたような十代の声。それから、視界が一気に白くなった。
「うわっ!」
 シーツが頭からすっぽりと被されてしまったらしい。地面に落とさないようにたぐって、どうにか顔をシーツから出すと、目の前にはやっぱり真っ白なモノがあった。
「十代!」
「へへっ、お化けだぞー!」
 まるで子供のようにシーツを被って襲い来る十代に、俺は転ばせないように……シーツを落としたらショックだ……その身体を支えにいった。
「何遊んでんだよ」
 今度は俺の口から呆れた声が漏れる。十代と言えば、シーツに顔を覆ったまま笑っていた。
「シーツにくるまるって、こんなことくらいしかないだろ?」
 手をだらんと前につきだして、幽霊のポーズをしている十代。今はハロウィンにはほど遠いぞ。
「おまえ、そういうのしか思いつかないのかよ」
「ああ! 他になんかあんのか?」
 ……十代らしいといえば、そうだけど。

「まぁそのうち、教えてやるよ」
「? 何をだ?」

 遊んでいる十代からシーツをひっぺがして、俺は自分のシーツごと持ってレッド寮の階段を駆け上ったのだった。


 *


 北国の春の朝は肌寒い。毛布にくるまって惰眠をむさぼるくらいがちょうどいいんだけど、今の俺にはちょうど良い温度の湯たんぽがあった。
「……そろそろ起きる……」
「ん」
 もぞもぞ、と湯たんぽが動き出したから、俺は名残惜しいけど腕の力を緩めた。
 湯たんぽは更にもぞもぞとして白いシーツにくるまったままベッドから降りた。後ろから見るとまるで
「幽霊みたいだな」
 なんとなくそう見えて、それから、いつか二人で交わした会話を思い出した。
「……言っただろ、幽霊以外にシーツにくるまることもあるって」
 にやにや、笑いながら言うと湯たんぽ……十代はむすっとした顔で振り向いてきた。
「こんなことだなんて思わなかったんだよ!」
 わずかに見える耳が真っ赤に染まっている。……いつまで経っても慣れないらしい。可愛い奴だなぁ。
「暴れると見えるぞ」
「見るなって!」
 昨夜さんざん裸を見られたことなどすっかり忘れている十代がおかしくて、俺はシーツの代わりに毛布にくるまって白いシーツ越しに十代を眺めたのだった。

ヨハンの日なのでヨハンを良い目にあわせてみました