ある肖像



「まいったなぁ」
 見知らぬ街を見下ろすことができる高台で、俺はひとりたそがれていた。正確には、途方にくれていた。
『クリクリ〜』
 どこかを飛んでいたのか、ハネクリボーが戻ってきてあるかわからない首をふるふると振る。申し訳なさそうな顔をするから、俺も触れないけど手を伸ばして
「心配ないって、相棒。ヨハンたちなら大丈夫だよ」
 そう励ますと、ハネクリボーは違うと再び首を振った。……俺が心配なのか。


 土地勘どころか言葉さえ通じない場所で、頼りになる相棒に迷子になられた。
 ヨハンは放っておくとどこかに行ってしまう……北を目指して南に逆走していることなんてザラだ……から気をつけていたのに、珍しいカードが並んでいるのを見ているうちにどこにもいなくなってしまっていた。
 これが俺の生活圏(といっても日本しか知らない)なら探しに行くこともできるけれど、生憎ここはそういうわけにはいかない。異国の子供が迷子だとあちこちで声をかけられ心配されたが、何を言っているのかまったくわからなかった。ハネクリボーが……精霊が何を言っているのかはわかるのに、人が何を言っているのか理解できないなんて、なんだか自分が情けなくなる。
「……俺も英語くらいは話せないとまずいんじゃないか……」
 考えてみれば、ヨハンといいエドといいジムやオブライエンといい、みんな日本語話してたから意思の疎通には問題がなかったんだなぁ。
「ヨハンに英語教わろうかなぁ」
 ぼんやりと呟いた瞬間。

「そうしたほうがいいな……っ、十代」
 息を切らしたヨハンが俺の前に立っていた。


「よく俺がここにいるってわかったな」
 夕暮れに沈んでいく高台。あちこちで灯りが点いていくのを眺めながら、俺はヨハンに問いかける。ヨハンは肩に乗ったルビー・カーバンクルを触れないけどなでる仕草をした。
「ルビーが見つけてくれたんだよ。それに、街の人たちが話してた。外国人の子供が迷子みたいだけど大丈夫かな、って」
 この街は小さいから、十代はすごく目立ってたんだぜ。
「迷子になったのはヨハンのほうだろ」
 小さな街だから、大きな通りはこの高台までのほぼ一本道だったのにどうすれば迷子になれるんだ。
「う……まぁそうだけど、元の場所を離れた十代だって悪いだろ」
 俺と同じように眼下に広がる街並みを見つめながら、ヨハンは「本当に探したんだからな」と俺の肩をぽんぽん叩いてきた。
「すまない。迷惑をかけて」
「迷惑はかけられてないよ。心配はしたけど。見つかって良かった」
 そのまま、沈んでいく夕日を眺める。
 こんな風に夕日を眺めていたことが、かつてあったことを思い出す。
 ひとりで、誰かの迎えを待って……そして誰も来なかった。

「やっぱり、いいよな」
「ん?」
「誰かを心配したり、誰かに心配されたりってさ」

 口に出して、なんだかものすごく嫌なことを言ったことに気づいた。
「ごめん、なんか変なこと言った」
 慌てて笑みを作る俺に、ヨハンは何を思ったのか。
「別に変じゃないだろ」
 俺の頭をわしわしとかき回す。
「おい、ヨハン!? 痛いって」
「頭なでてるだけだって」
 それに、とヨハンは言葉を続ける。

「こうやって迷子の十代を探して心配するのも、見つかって嬉しいって思うのも、俺の特権だもんな」
 もちろん、十代が俺を探して心配するのも一緒なんだから。
 俺の髪をぐしゃぐしゃにするヨハンの手を離して見上げると、ヨハンは楽しそうな笑みを浮かべていた。
 ヨハンの肩にはルビーとハネクリボーがそれぞれ乗ってやっぱり笑っていて。
「なんだよ、特権って」
 思わず笑いながら問いかけてしまった。
 俺が望んだ答えが返ってくると、わかりきった問いかけを。


「俺たちは一緒にいる『家族』なんだから」


恋人通り越して家族ってある意味理想形な気がするのでうっかり書いてしまいました。
ついでに4期後は放浪EDがいいよと思ってるのでそんな雰囲気で(2.10)
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