頂き物のターン!
小高い丘の一角に、小さな穴ぐらがありました。
青いペリカンは、今日もそこに手紙を届けます。
「明日香さん、お手紙っす!」
「翔くん、ありがとう」
穴ぐらに住んでいるのは、野うさぎでした。ぴんと伸びた耳もつんと短く立ち上がったしっぽもどこもかしこもきれいでかわいらしいと青いペリカンはいつもどきどきとしてしまうのです。
「宛名は、兄さんからね?」
「そっす」
手紙を受け取った野うさぎは裏に書かれた名前に小さく眉をしかめます。どこ吹く風で森じゅうを旅しているという白うさぎの兄は、たまに変な仮面をかぶっては黒うさぎになったり、女の子たちにきゃあきゃあ言われたりといろいろと問題を持ってくる兄なのです。今日もどんなことを書いてきたのやら。
ゆううつな気持ちで、野うさぎは手紙を持ち上げました。そして。
「あ、明日香さんっ!?」
ぽりぽりと、ワラの紙を食べる音がします。青いペリカンはそれを呆然と眺めていました。
封筒の端を切るときに切り口を食べながら開けるのはうさぎにはよくあることです。
ですが、
「あら、兄さんからの手紙まで食べてしまったわ」
野うさぎは困ったような顔をしてしまいました。
「兄さんたら、わたしが牧草好きなのを知ってて、どうして牧草でできた紙で手紙を書いてくるのかしら」
本当に困った兄さん。でも、野うさぎはほほえみました。
野うさぎとしては、兄には妹の草の好みを把握していてくれるのはうれしいけれどと、ほんのちょっと思ったようです。
「そうだわ、翔くん。今から兄さんに手紙を書くから届けてくれる?」
なぜかがっかりしている青いペリカンに配達を頼むと、青いペリカンの顔が輝きました。
「わかったっす!」
青いペリカンが飛んでいってしばらくしたあと、今度は黒ツバメが穴ぐらの前に降り立ちました。
「天上院くん! ししょ……お兄さんから速達だ!」
さっそく、白うさぎから返事が来たようです。野うさぎは小さなドアを開けて黒ツバメを招き入れました。
「ありがとう万丈目くん。兄さん、ずいぶん急ぎの用事なのね」
「は? ……とにかくこれを」
首をかしげる黒ツバメから手紙を受け取った野うさぎは、青いペリカンからもらったときと同じようにワラでできた封筒をぽりぽりと食べながら封を開けます。
そして。
「て、天上院くんっ!!?」
封を開け終わったというのに、野うさぎはさらに紙を食べ続けてしまいました。
「……あら、また兄さんからの手紙を食べてしまったわ」
また、野うさぎは困ったような顔をしてしまいました。
黒ツバメは「また?」と思いつつも呆然としています。
「兄さんたら、わたしが猫草好きなのを知ってて、どうして猫草を入れてきたのかしら」
本当に困った兄さんね。でも、野うさぎはほほえみました。
野うさぎとしては、兄には妹の草の好みを把握していてくれるのはうれしいけれどと、また思ったようです。
「万丈目くん、申し訳ないんだけどまた兄さんに手紙を書くから届けてくれる?」
なぜかがっかりしている黒ツバメに配達を頼むと、黒ツバメの顔が輝きました。
「いいだろう!」
あちこちふらふらしている、と野うさぎに言われた白うさぎは、今日も風になってあちこちを歩くはずでした。が、
「吹雪さあああん、全然ダメじゃないっすかあ!」
まるで速達のように飛んでくる青いペリカンに、大きく目を見開くばかりです。
「ははーん、翔君、僕が教えたアレをやったんだね?」
そして、用件まであっという間にわかってしまったようです。
「明日香さん、ボクの、ボクのラブレター……たべちゃ……っ」
ぼろぼろと泣き出す青いペリカンをなだめるのに、白うさぎは少し困ってしまいました。
野うさぎに告白するのに白うさぎの宛名を使ってラブレターを送ればいいよ、と言ったのは白うさぎ自身でした。
そのときに野うさぎの好きな紙や草を教えたのですが、うさぎや山羊に手紙を送るときには、好きな紙や草で送ってはいけないよ、という意味で教えていたのです。
「好きな紙は、僕も読まずに食べちゃうなあ。あ、僕の好みは……」
「そんなの聞いてないっす! でも、明日香さんにお願いされるのはうれしかったっす」
泣きながらもえへへと笑う青いペリカンに、白うさぎは「青春だねえ」と晴れやかに笑います。
「師匠ーーーー! 手紙を食べられてしまいましたぁっ!」
「え、万丈目くん!?」
これ以上ないくらいの速達のように飛んでくる黒ツバメの叫びが、白うさぎと青いペリカンの耳に聞こえてきました。
どうやら、黒ツバメも白うさぎの宛名を使って野うさぎにラブレターを送っていたようです。
「吹雪さん、万丈目くんにも教えたっすか!?」
「うん、僕はみんなに平等だからねぇ。でも、彼も食べられちゃったみたいだね」
本当に、アスリンは鈍感だなぁ、と白うさぎは妹をめぐる恋模様を楽しげにながめるのでした。
RW-netの白葵様からいただいた山羊話に登場する動物たちす。
この可愛さはなんだ…! とSSをつけてしまいました。
本当にありがとうございました!(08.12.05)
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