骨まで愛して



 お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、というけれど。
 俺はお菓子は自分で食いたいし、いたずらされるのもごめんなんだよなぁ。
 だから。


「十代、トリック オア トリー……うわああああああっ!」

 レッド寮の建て付けの悪いドアを開けてお菓子をねだりにきたヨハンが、玄関で絶叫するのをベッドに腰掛けて眺める。
 趣味が悪いものを入り口に置いたから、まぁ、しょうがないかなぁとは思うけど。
「ななな、なんだよ……何見て……って、目がないから見てないか」
 ヨハンがちょんちょん、とソレを触っている姿がなんだかかわいい。ていうか、俺にさえ気づいていないとは。
「いたずらされるのもなんだから、こっちからいたずらしてやったぜ!」
 どんなもんだ! とベッドから立ち上がった俺に、ヨハンは「わああああああああっ!」とまた絶叫した。どうやら、俺がソレの背後から出てきたように見えたようだ。
「十代、おどかすなよ!」
「いや、こんなに驚かれるとは思わなくてさ」
 俺がソレと肩を組むと、ソレはガシャガシャと賑やかな音を立てた。
「ていうか、ソレ、どこから持ってきたんだよ?」
「保健室。鮎川先生に頼んだら貸してくれてさ」
 俺が肩を組んでいるヤツを、ヨハンにも紹介してやる。
「人体骨格標本のヤマダくんだ」

 俺の代わりにヨハンを迎えたのは、臨時レッド寮生のヤマダくんだったのだ。俺の制服のジャケットを着せて、玄関の前に立ってもらう。そうするだけで、お菓子をねだりに来た連中を逆におどかしてくれるのだった。
 ……本当は、人体解剖標本のスズキくんも借りたかったんだけどな。

「おまえなぁ。お菓子はどうしたんだよ?」
 呆れたヨハンが、俺とヤマダくんを引きはがす。どうやら肩を組んでいるのが気に入らなかったらしい。
「え、全部食った」
「……へぇ。なるほどぉ」
 あ。やべぇ。
 うっかり言ってしまった事実はヨハンのスイッチを入れるには十分だったらしい。
 ヤマダくんを玄関どころか外に押し出して、ドアを閉められてしまう。わ、鍵までかけたぞ…!
「お菓子をもらえなかったんだから、当然、いたずら、だよなぁ?」
 頭をぶつけないようにベッドに押し倒される。本当にやばい。
「待て、ヨハンっ! 誰か来たら…!」
「大丈夫。みんなヤマダくんにびびって近寄ってこないさ」
 自分がそうだからって、まだ来てない他の奴らがそう思うかなんてわからないじゃないか!
「助けてヤマダくーん!」
 思わず助けを呼んでしまった俺の鎖骨に、がぶり、と歯を立てられてしまった。
「俺の前で他のヤツの名前を呼ぶなよ。……骨まで愛してやるんだから」


 ……その後、骨まで愛されることになった俺がどうなったのか。たぶん、声だけヤマダくんに聞かれてしまっただろう。
 保健室のヤマダくんを見るたびに、そのことを思い出してしまうことだけは、ヨハンにはぜったい知られるもんか!



ハロウィンのコスプレと言われて、リアル骨格標本と解剖標本に包帯巻いて以下略しか思いつかなかった自分は負け組。(081031)
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