HAND IN HAND



 詰め込む荷物はいつだって少なくするっていうのが俺の持論だった。
 手のどちらか……もしくは両手はいつだって空けている。

「えっと、財布だろ、PDAだろ、カードだろ、地図だろ……」
『ヨハン、地図はいいんだが、何故世界地図なんだ?』
 サファイア・ペガサスが不思議そうな顔でこちらを見てくる。俺がバッグに詰め込んだのは、8つ折にした世界地図だった。
「だって、どこ行くかわかんないんだぜ? その場の地図はそのとき買えばいいじゃないか」
 得意げに言ったら、サファイア・ペガサスの顔に呆れの色が浮かぶ。更に、
『るびっ』
「なっ、ルビー、おまえなぁ!」
 ルビーの奴、『地図があったって迷子になる』って! そりゃ、俺は方向音痴だよ。ルビーがいなきゃ迷子確実だよ。でも、それでも。
『それでも、彼を探すのだろう?』
「ああ」
 地図をしまいこんで、バッグを閉じる。
 卒業式も終わったし、これで、ここにいる理由はなくなった。


 半年前、一足先にデュエルアカデミアを卒業していった、かけがえのない親友。
 別れの言葉ひとつかけさせてくれなかった。
「だってさ、俺、まだ何にも言ってないんだ。バカっていえなかったし、ありがとうも言えなかった」
 俺が帰国したのとほぼ入れ違いに異世界から帰還したという十代は、しばらくは誰ともかかわりを持とうとせず、授業にも出ず(そして留年しかけた)、更に退学届けまで出していたらしい(でも受理されなかった)。
「本当、バカだよなー十代って」
 人一倍寂しがりのくせに、無茶しようとして。

 他人に迷惑がかかるなんて考え、十代らしくない。それで孤独になろうとしていたなんて、バカだ。
 人はひとりだから、誰かが必要なんだって、みんな本能でわかっているのに。
 孤独がわかるからこそ、誰かの存在がとても大きいってわかるのに。

「まあ、十代のことだから、どこかで元気にやってるとは思うけどさ」
 そして、誰かの孤独を癒し、癒されているのだろう。旅に同行している猫も精霊もいることだし。
 でも、もしも。
「俺の手が必要なときは、いつでも駆けつけてやりたいんだ」
 そのために、俺はいつでも十代に手を伸ばしている。
 伸ばされた手をすぐに掴むために、いつでも。

 十代が手を伸ばしてくれたから俺は救われて、俺も十代を助けられたんだ。
 せっかく借りを返せたと思ったのに、また借りができて、その礼すら言わせてくれないなんて、あんまりだろう?
 お互い、貸し借りなんて本当は思っていないけれど、多分俺は口実がほしいんだ。
 再会の理由があれば、俺はいつまでも十代に向けて手を伸ばすことができるから。

『それで、まずどこに向かうんだ?』
「んー、とりあえず風の向くまま気の向くまま、明日の風が吹いた方向かな!」
『……まずは南下しないか、ヨハン。ここより北には十代も行かないだろう』
 現実的なことを言うサファイア・ペガサスに、「そうだな」と返しながら、手のひらをじっと見る。

 詰め込む荷物はいつだって少なくするっていうのが俺の持論だった。
 手のどちらか……もしくは両手はいつだって空けている。

「俺が手を伸ばしてるんだからさ、十代も手を伸ばしててくれよ」
 そうすれば、方向音痴どうしの俺たちだって絶対にまた会えるんだぜ?


テニミュのDVD見ながら書いたらこんなことになりました。
タイトルまんまですみませんw
けんぬ繋がり的に許してください。
っていうか不二兄弟が好きすぎる<ここで言うなw(5.29)
BACK