それは突然に
(10のキスの仕方・真っ向勝負 - ヨハンSIDE)
きっと今、俺は宝玉獣たちと出会ったときと同じくらい幸せな日々を送っているのだと思う。
俺と同じように精霊の姿を見ることができて、精霊との絆を大切にしていて、デュエルを心から楽しんでいる存在。俺の宝玉獣たちも皆、十代のことが大好きだと言っている。なんでも、俺と十代はとてもよく似ているらしい。……そうか?
十代と出会ったときから初めて会った気がしなかったのは、きっと今こうしている予感があったのかもしれない。
いつでも、どこでも一緒にいる気がする。一緒にいるのが自然だから、近くに姿が見えないと妙に落ち着かない。気づけば姿を探すべく視線をあちこちキョロキョロさせてしまったりしている。見つけるとものすごく安心して、何となく離れがたくなってしまうのだ。まるで、時折鉄砲玉のようにあちこち駆け回るルビーのように。そういえば、十代と出会えたのもルビーのおかげだったっけ。
今日もまた、オシリスレッドの十代の部屋でカードを並べてデュエルの最中だ。互いに愛用のデッキとは違う40枚でのデュエルはものすごく新鮮だ。何しろ、開けたばかりのパックそのままの構成でのデュエル。開始前、十代の顔がにんまりしていたのは良いカードがあったからだろう。こっちだってけっこういいのが揃ってるんだ。昔からカードの引きは強いんだぜ。
「俺のターン、ドロー! ……うーん……」
カードを伏せてターンを終了した俺に代わって、ターンフェイズは十代に移る。テキストを読みながら何かを考え込む十代をのんびり待つことにした。十代は時折ぶつぶつと何か呟いているが、まだコンボを決めかねているらしい。
呟きから、何か聞き取れないだろうか? 読唇術を試みるべく十代の口元に注目する。……素人には、何を言っているのかわからなかったが、代わりに別のことが……突拍子のないことが頭をよぎった。
――あの唇に触れたら、どんな感じがするのだろう。
今まで一度も考えたことのない、わけのわからない考えが頭をよぎっていく。だいたい、何でこんなことを考え付いたのかわからない。むしろ、普通考え付くわけがない。
だって、相手は十代だ。短期間とはいえ、いつでも一緒にいる、親友相手にだぞ。
だけれど、一度考え出すととまらない。
コンボを考えるべく思考に沈む十代に、俺は無意識に言葉を発していた。
「なあ十代」
「んー?」
「キスしよっか」
「おう」
思いがけない返答に、言い出した俺のほうが真っ白になった。……え、いいのか!?
自分の発言にも驚いているけれど、十代の返事にはもっと驚いてしまった。いくらデュエルバカとはいえ、人並みに女の子とするだろうことはわかるだろう行為を、男に提案されて当然のように了承して。
十代とは別の思考に沈んでいた俺は、十代が何かたずねてきたのをすっぱりと聞き流してしまっていた。すぐにターンエンドの声が聞こえてきたから、たいしたことではないのだろう。
言ってしまったからには、やるしかない。
ターンを始める前、十代の肩を掴んでこちら側に引き寄せて。カードを散らばさないようにしながら、唇を近づける。
目を閉じて、触れた感触の心地よさに驚いた。熱を帯びた薄い皮膚が触れ合っているだけなのにしっとりと吸い付いてくる。キスが甘い、なんて誰が最初に言ったんだろう。甘いなんて生易しいものじゃない。
俺の唇の熱と交じり合って十代の唇がかすかに乾いたような気がして、どうにか潤したい、と、自然に舌でぺろり、と舐めた瞬間。
「うわっ!」という、色気の欠片もない叫びとともに、無理矢理身体を引き剥がされた。
我に返って、なんてことをしたんだろうと思いながらも出てきたのはずれた余裕を主張した発言で。
それに返って来た十代の言葉に、俺は盛大に溜息をつきたくなった。どうやら、心理作戦と勘違いされたらしい。
ああ、デュエルと違って、これは一筋縄ではいかない。真っ向勝負で、いけるのだろうか。
自分のターンを宣言しながら、俺は唇に触れた感触をもう一度思い出していた。
キスをして、ひとつだけわかったことがある。
それは、俺は十代を親友ともデュエリストとも違う、もっと深い意味で好きなのだ、ということ。
すでに真っ向勝負ではないヨハンの自覚編でした。(1.27)
BACK