My special card
俺のデッキには、本当のとっておきのとっておきのカードが入っている。
「あちゃー……」
「ははははははっ! 十代どうだ! 貴様の場にはカードが一枚も無いではないか!」
『万丈目のアニキ〜。そんなに笑ったらアゴ外れちゃうわよん?』
ふんぞり返って笑う万丈目の場には、奴のエースカード……オジャマトリオたちだ……が大喜びで踊っていた。そりゃそうだろうな。ノリノリでオジャマデルタハリケーン使って、俺の場をがら空きにしちまったもんな。まぁ、あいつら見てると戦法丸見えだけど。
「オレのターンだなっ!」
高笑いしながらカードをドローした万丈目だったけど、どうやらモンスターカードは引けなかったらしい。舌打ちしてカードを伏せてターンを終了した。
さて、どうするか。
俺のヒーローたちはみんな墓地送り。手札だって1枚もない。オジャマたち、すげえぜ! ……って感心してる場合じゃないな。
「俺のターン」
デッキに指を伸ばす。カードにふれた瞬間、
『……俺の出番か?』
流れ込んでくるカードの声に、俺は息が止まりそうになる。
ああもう、こんなタイミングでお前を引くのかよ。
指先に力を込めて、
「ドロー!」
カードをドローして、予想通りのカードに「頼むぜ」と小さく声をかけた。
「俺はこいつで行く!」
ディスクにカードをおいたとたんに、周囲の空気が変わる。
「なんだ!?」
『イヤーン、飛ばされちゃうわぁ〜』
俺が召喚した場に砂塵が巻き起こり、思わず目を閉じてしまう万丈目たちだったけど、俺は目を閉じることもなくその場を見守っていた。
……どうか、風呂にだけは入っていませんように。
ようやく砂塵が収まって、周囲の空気が元に戻る。
目を開いた万丈目は、俺の場にいるモノに、ぽかんとアゴが外れるくらいに驚いた。
『よ、十代。呼んだか? お前に呼ばれるのひっさしぶりだなー!』
「おう。ちょっと今ピンチなんだよ」
『なぁるほどなー』
万丈目の場のオジャマトリオに何があったのかを把握したらしいそいつは、『よし、俺にまかせろ!』と胸を張った。
「ちょっと待て十代! 貴様、ソレは何だ!!?」
さっさと次に行きたい俺に、万丈目が待ったをかけてくる。どうやら俺の場にいるものが信じられないらしい。
そりゃ、そうだよな。
俺だって、まさかこんなことになるとは思わなかったもんな。
俺が召喚したカード。
レベルをあらわす星だけで4行使う、妙にかっこうつけたポーズのイラスト、そして、攻撃力防御力ともにゼロ。
「ヨハン、貴様いつの間にここに来ていたのだ!?」
『いつの間にって、俺、十代に召喚されて来たに決まってるじゃん』
表側攻撃表示で召喚したカードの名称は《ヨハン・アンデルセン》だった。
「待て! おかしいだろう! 何で貴様がカードになってるんだ!? だいたい、生け贄なしでレベル……」
「48」
ひぃふぅみぃ、と律儀に星を数え出す万丈目に助け船を出す。
「そんなレベルのモンスターを召喚できるものか! っていうか、そんなカードがあるか!」
一応、ペガサス会長がくれたんだけどな。
そのへんはツッコミを入れようかとも思ったけど、さっさと効果発動したい。
『なんだ万丈目、俺がこわいわけ?』
にやり、とヨハンが万丈目を挑発する。万丈目はハン、と鼻でヨハンを笑った。
「何をおそれるというのだ。貴様がどうであろうと、攻撃力ゼロでは召喚しても……」
そこまで言って、万丈目がはっと固まる。
万丈目の場のオジャマたちだって、攻撃力ゼロじゃないか。……守備力はヨハンよりあるけどさ。
「まさか」
ヨハンのカードは、星だけじゃなくてテキストもけっこう幅をとっている。
その内容を、俺は万丈目に教えることにした。
「このカードは、墓地にあるモンスターカードが4枚以上のとき、生け贄なしで召喚することができるんだ。
そして、そのカード効果は――」
『十代、あとは俺にまかせろよ!』
ヨハンが嬉々として右手を高くかざす。
『来い! 俺の家族たち!』
ヨハンの背後から、宝玉獣たちが現れる。
「召喚したターンのメインフェイズにのみ、カード効果『宝玉獣使いの氾濫』を発動できる」
『よし、我々の出番だな。ヨハン、十代』
『まかせたぜ、みんな!』
宝玉獣たちがいっせいに万丈目の場に向かっていく。
アンバー・マンモスとエメラルド・タートルが伏せカードを次々と踏みつければ、サファイア・ペガサスとアメジスト・キャットとトパーズ・タイガーがオジャマトリオたちに向かっていく。あ、オジャマたち自分から墓地に逃げ込んだぞ。
「こら、貴様ら……!」
あわてふためく万丈目には見えていないかも知れないけど、ルビーとコバルト・イーグルが俺の墓地から連れてきてくれたヒーローたちが、俺の場に集結する。
「宝玉獣使いの氾濫は、ヨハン以外のフィールド上のカードをすべて墓地に送り、さらに相手フィールド上から墓地に送られた枚数だけ、モンスターを特殊召喚できるんだ!」
万丈目の場にあったのはオジャマトリオと伏せカード2枚。
だから、俺の場にはモンスターが5体特殊召喚されてきた。
……ただ、特殊召喚される墓地のモンスターはランダムに選ばれてくるんだけど。
「なんだそのカードは、反則じゃないか!」
「でも、ペガサス会長にお墨付きもらったし」
『なー、十代』
「なんだとぉ!!?」
今度こそアゴを外したらしい万丈目に、俺はバトルを宣言した。
「まったく、ありえん!」
とんでもないカードを出されたと肩をいからせて立ち去っていく万丈目を見送る。
ソリッドビジョンは消えても、召喚したヨハンは消えなかった。……これが、また不思議なんだけど。
「サンキュ、ヨハン。呼び出して悪かったな」
「いいって。どうせレッド寮に向かってたし、手間が省けたよ。じゃ、次は俺とデュエルしようぜ!」
「おう!」
もちろん、ヨハンとのデュエルの時はこのカードは使えない。
カードをデッキから避けた俺に、ヨハンは「なぁ」と小声で尋ねてきた。
「もっと俺を使っていいんだぞ?」
「そう言ったって、条件が特殊すぎるだろ」
さすがにレベル48だけあって、召喚条件は厳しい。万丈目には言わなかったけど、生け贄を必要としない代わりに手札があのカード1枚のみかつ墓地にモンスターが4体以上いないと召喚できないのだ。それ以外の召喚方法は、ない。
「だってさー、俺のほうが十代を呼ぶ回数多くないか?」
「……それだけど、あんまりどこかしこで呼ぶなよ。エビフライの日に呼んだら怒るぞ」
「わかってるって」
ヨハンは、俺のカードを持っている。ヨハンが俺を召喚すると俺は何をしてようとヨハンのところに呼ばれてしまうのだ。――一度、風呂あがりに呼ばれたときは本当に参った。俺のカードのほうが召喚条件は緩い。レベル10だし。
だから、ほんとうのとっておきのとっておき、大ピンチのときにだけ現れるようにできているヨハンのカードが、どこかヨハン本人らしいとも思ってしまうのだった。
だって、ヨハン、ヒーローみたいじゃん!
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