お引っ越し



 一緒にあちこちを旅するようになって、新しい街で最初にすることは家探しだった。
 最初の数日は夜もあちこち歩き回って、街の様子を見る。どんな人たちが住んでいるのか、どれくらい暮らせるのか、噂好きの街なのか治安の良し悪しはどうなのか。治安はともかく、噂がいつまでも残るような街には長居はできない。
 今回の街は、住み心地は良さそうだ。娯楽の類は少ないけれど、人々がとてもいきいきしている。道端にいた子供が楽しそうにデュエルをしていたのも好印象だ。

「ここか?」
「そうみたいだな」
 仮のすみかは、行商人から聞いた不動産屋に紹介されたアパートメントだった。一人で住むには広いけれど、二人で住むには狭い、そんな中途半端さが借り手がつかない原因らしい。一応、それ以外の原因も調べてはみている。
「……どうだって?」
「ユベルが言うには悪いものの類はいないってさ。場所も街から外れてるし、不便っちゃ不便だし、もう少し街寄りか、隣町の駅近くに家は集中してるって言ってたからな。単純に立地が悪いだけみたいだ」
 俺が告げると、ヨハンは安心したように借りてきた鍵を鍵穴に差し込んだ。
 俺たちが探す家の条件は、まず家具があるかどうかだ。それ以外のものは用意しても出て行くときに売ればいいけれど、家具はそうはいかない。テレビがついていれば御の字だ。
 今回のアパートはテレビどころか電話にインターネット接続もできるらしい。後者二つは不要だけど、テレビがあるってのは嬉しい。
 リビングとベッドルームが別になっているらしいが、洗面所以外の扉はひとつ。やはりというか、風呂はない。たまに風呂が恋しくなるけれど、それは共同浴場を探すしかないだろうか。
「ベッドは1つか」
「一人暮らし用だから、1つに決まってるだろ」
 ベッドルームを覗いてみて、小さなシングルベッドに互いに顔を見合わせる。
「デュエルで勝ったほうがベッドな」
「そうだな。期間は一週間な」
「おう」
 一人暮らし用の部屋を二人で使うってことで、大家さんにはマットレスを用意してもらうことになっている。そのへんも不動産屋が手筈をととのえてくれた。このデュエルには気合が入る。
『るびっ』
『クリクリ〜っ』
 ルビーとハネクリボーが現れて、ベランダに飛び出していく。俺たちも倣ってベランダに行って、外を眺めた。
 空き家が目立つかつてのベッドタウン。それでも、人はたしかに住んでいて、夕食の準備をする音や何か歌っている……なんて歌っているのかがわからないけど、ヨハンが言うには数え歌の類らしい……子供たちの声が生活感を伝えてきた。
「良さそうな街だな」
「ああ。ここにしようぜ」
 もしもここがダメだったら、俺たちは別の街に行こうかと思っていたけれど、住むのも申し分なさそうで安心する。

「じゃあ、まずは不動産屋と大家さんに連絡だな」
「それから、メシを食おうぜ。……っと、その前に食器を買ってこなくちゃな」
 互いにお気に入りの皿とカップくらいしか手持ちにないから、他の食器はそのつど用意しているのだ。
 少ない荷物をクローゼットに押し込んで、鍵をかける。
 通話とメールしかできない携帯電話で教えられた番号に電話をかけながら、新しい街での生活はどうなるんだろうとワクワクしながら考えた。

 どこにいても、きっと俺たちは変わらず一緒にいて、笑い合ったりデュエルしたりケンカしては仲直りしたりするんだろう。
 財布の中身を確認するヨハンと目が合うと、同じように楽しそうにしていたから、俺も負けずに笑い返した。

4期終了後妄想でお引っ越しネタです。
たぶん、この二人は適当に暮らしつつも家賃はいつの間にかどっちかが払ってそうです。
「あ、俺家賃払い忘れたかも」「俺が払っといたぜ」「サンキュ!」って(3.14)
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