虹の根元



「それにしても、レインボー・ドラゴンかぁ」
 見たこともないカード、見たこともないデッキ。
 フィールドに表表示でおいてあるカードたちに目を輝かせるのは、始業式で俺とデュエルをした、本校のカリスマ……遊城十代だ。まさかさいしょっからこんなすげえヤツとデュエルできるとは思ってなかったから、思わず惜しげもなく家族たちを見せた。
 家族たちもまんざらではないようで、姿は見せないけれど十代に興味津々のようだった。
「ああ。レインボー・ドラゴンが入ることで、このデッキは完成するんだ。ああ! 早く手に入れたいぜ!!」
 思わずぐっと拳を握りしめる俺に、十代は「おう、楽しみだぜ!」と一緒に拳を握りしめてくれた。……こいつ、いいヤツだな!
「っていうか、アテはあるんだよ。多分、あるんじゃないかなーって場所がさ」
 だから、ついうっかり、口を滑らせてしまった。――さすがに、笑われると思って……実際笑われた……言わないでおこうとおもってたことなんだけど。
「お、アテあるのか!?」
 ペガサス会長に探してもらってるんだろ?
 案の定、十代が食いついてきた。……言っても大丈夫かな?

「レインボー・ドラゴンってくらいだから、きっと虹に関係するところにあると思うんだよ。
 だから、虹の根元にあるかもしれないって、ずっと思ってるんだ」

 さすがにコレはないだろ、とアークティック校の友達みんなに笑われたけど、俺けっこう本気なんだぜ?
 でも、笑われてしまったからか、なんだか言うのをためらってしまっていたけど、十代にだったら話してもいいって思ってしまった。
 ……どうしてかわからないけど。
 もし笑われたら、ちょっと傷つくかもしれない。きっと、今までで一番。
 そんなことを考えていたら。

「……すっげぇ! さっすがヨハン、もう目星つけてんだ!」

 十代の言葉は、俺が予想した望んだものだったけれど、俺の想像以上に俺は嬉しかったんだ。
 うん、十代だったらこんな反応返してくれると思ってた。
 でもさ、ここまではさすがに想像してなかったぞ。
「だったらさ、俺も探しに行くの手伝うぜ! 虹の根元だろ!?」
 すっげぇワクワクする!
 さらに拳をぐっとにぎりしめる十代が、今にも外に飛び出して行きそうだ。
「でも、俺がそう思ってるだけで、本当にあるかなんてわからないんだぞ?」
「えーでもヨハンは虹の根元にあるって思ってるんだろ? 絶対あるって!」

 ……うわ、俺、すっげぇ嬉しい。
 俺の言ったことに笑ったりしないで、こんな風に言ってくれるヤツって初めてだ。
 知らずに、握った拳に力が入る。
「ああ、虹が出たら、一緒に探しに行こうぜ!」
「おう、約束だかんなっ!」


 こうして、俺は虹の根元に行く仲間を手に入れた。



 それから。
「うわ、ヨハン、虹だぜ!」
「うわあ! 早く行かないと!」
 準備もそこそこに外に飛び出す俺たちの頭上には、七色の虹が伸びている。
 その先へ、先へと。ただ、走る。
「まだ消えてない! よし、掘るぜ!」
 スコップもシャベルも持ってきてないからそのへんにあった大きな石や木の棒で地面を掘り出す俺たちの前で、無情にもつかめない虹が姿を消していく。

「……ない」
「…………。ない、な」

 50cmくらい掘ってがっくりと肩を落とす十代は、はっと顔を上げた。
「もしかして、反対側の根元だったのかもしれない!」
「うわ、そっか!」
「手分けしたほうが良かったなー」
 今更思いついたぜ……と再びがっくりする十代の肩を、ぽんと叩く。
「俺は、十代と一緒に探したいんだから。……また虹が出るのを待つさ」
「効率悪いだろ?」
「いいんだよ。一緒に見つけなきゃ意味がないんだからさ」
 消えていく虹を見上げながら、俺は伸びをひとつ。

 レインボー・ドラゴンは見つからないけど、一緒に虹の根元に来てくれる十代がいてくれるから、いつか絶対見つかるんだって確信している。
 そうしたら、絶対に最初にデュエルする相手は十代だって決めたんだ。

「さて、穴を戻して帰るか。そろそろ夕飯だろ?」
「お、そうだな。今日はエビフライなんだぜ! 早く帰ろう!」
 気合いを入れて穴を埋め出す十代の調子の良さに苦笑して、俺もシャベル代わりの木の棒を掴んだ。

 虹の根元にある宝は石版だけじゃないってわかってるし、それはもう先に見つけているから。
 また虹が空に架かったら、また二人で探しに行こう。


 虹の根元にあった、俺の「宝」と二人で、もうひとつの宝を探しに。


チャットで出した虹ネタSSを微妙に加筆修正しました。
参加してくださった方々、本当にありがとうございました!(080817)
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