明かに見えし必然の



 人には何事にもタイミングがあるという。
 タイミングが合う存在同士が出会うことができるのだ。
 たとえば、俺が宝玉獣に出会えたこと。
 俺があの大会に出ていなかったら、ペガサス会長があの会場にいなかったら、俺は大切な家族たちに出会えたりはしなかったのだろう。
 だから、どんなことになったって、きっとそれは何かものすごいタイミングが待っているからだと思うことにした。

「で、始業式で迷子になったのかぁ」
「そっ。寝てるうちに船はいつのまにか島に着いてるし、船の中は誰もいないし、ルビーはどっか行っちまうし、本当参ったんだぜ!」
 反省会だけじゃ飽きたらず、レッド寮まで上がり込んで薄いお茶をすすりながら、俺は昼間のあれこれを十代に話していた。
「船って、誰も探しに来なかったのか?」
 同じように薄いお茶をすする十代の肩には、ハネクリボーが難しげな顔をして居座っている。視線は俺の肩……ルビーに向けられているのだ。
「ああ、っていうか、俺、船に乗ってからずーっと部屋に籠もってたからさ。誰とも会わなかったんだよ。おかげで幽霊扱いだぜ」
「ははは、こんなおしゃべりな幽霊……いるか」
 十代の最後の言葉は、天井の梁に消えていった。いつの間にきたのか、梁の上には太った変わった風貌の猫が大きなあくびをしている。
「ん? どーした?」
「いやっ、なんでもない!」
 視線を梁から俺に戻して、十代が慌てて繕った笑みを浮かべた。変なヤツだな。天井に幽霊でもいたのか?

「とにかくさ、俺が船酔いで最悪な気分だったのも、ルビーに置いていかれて迷子になったのも、全部十代に会うためのタイミング合わせだったんじゃないかって思うんだよ」
 そう。
 あんな楽しいデュエル出来たのも、その前に少しでも話すことが出来たのも、全部俺と十代のタイミングが合ったからなんだよなぁ。
 本当に精霊が見えるヤツがいて、ルビーを見つけてくれるなんて思わなかったから。俺の家族に気づいてくれたから。
 それだけで、具合の悪さも学園じゅうを走り回った疲労も全部吹っ飛んだくらいに嬉しかったんだ。

「ヨハン、おまえ、船酔いしてたのかよ」
 俺の力説に、十代は見当違いなことを聞いてくる。
「だってさ、俺、一番最初に乗ったんだぜ。最初の頃は嵐がすごくてさー。後半は快適だったけど、思い出しただけで吐き気が……」
 口元を押さえてうずくまると、十代が慌てて俺の背中を撫でさすってきた。
「って、ここで吐くなぁっ!」
「ま、吐きそうなのは嘘だけど」
 十代って、けっこうからかい甲斐があるヤツかもしれない。
「おまえなぁ!」
「はははっ、でもさ。俺、本当に君とデュエルできて良かったって思ってるぜ」
 押さえていた口元に笑顔を乗せながら言えば、十代も呆れていた表情を笑みに変えてくれた。
「俺もっ!」

 いくつものタイミングが合えば、どんな偶然だって必然になってしまう。
 俺たちはそんな必然の中で出会って、こうして笑い合っているのだ。


*

(081001)




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