虹のたもとには、君がいるのかもしれないね
結局、さがしものを見つけたのは俺たちではなかった。
「改めてみると、すげぇな」
「だろー?」
ふだん明かりをともすことのないレッド寮の一室にともした明かりは久しぶりのような気がする。時間はそう経ってはいないはずだけど、随分いろんなことがあったよなぁと思い起こす。……とりあえず、レポートちょっとは減らしてくれよ、クロノス先生……!
レポート書きを休憩しつつ眺めていたのは、ヨハンのデッキにある一枚のカードだった。
「レインボー・ドラゴンってくらいだから、俺が虹の根元掘って見つけてやるーって思ってたのに、結局ペガサス会長が見つけてくれたんだよな」
念願のカードだというのに、ヨハンとしてはそれがほんのちょっと、悔しいらしい。
「いいじゃん。見つかったんだから」
「まぁなっ」
ここで、会話が途切れてしまうのは、それから起こったことを思い返してしまいそうになるからだ。
本当に、いろいろあったんだよな……。
いつかは、俺も向き合わなければいけないこともたくさんあったし、受け入れたことも諦めたこともあった。
それを全部ひっくるめて、結局俺は俺でしかなかったんだよな。
視界の先にユベルが現れて、何を言うでもなく消えていく。その気配を感じ取ったのは俺だけじゃなかったらしい。
ヨハンも一度ユベルが消えた場所に視線を向けて、それからこちらに振り向いた。
「まぁ、こいつを手に入れてからもいろいろあったけどさ。俺、本当にうれしかったんだ」
浮かべた笑顔が本当にうれしそうだったから、俺もつられてこわばった表情をゆるめてしまう。
「だよな。やっとでデッキ完成したんだもんな」
そう、ヨハンのデッキは完成して、ヨハンの願いどおりに人を救ってきたじゃないか。
俺の言葉にヨハンは「いや」と首を振った。
うれしそうだった表情がちょっとだけ……なんていうか困ったものになる。
「俺が言いたいことは、そういうことじゃなくてさ」
「なんだよ?」
俺の問いかけに、ヨハンの表情が本格的に困惑の色に染まった。
どう言っていいものかわからない、とでも言いたそうだ。でも、言葉がまとまったらしい。
「レインボードラゴンは見つけられなかったけどさ、俺は十代を見つけられたから、いいや」
……なんだそりゃ。
「俺、別に虹の根元に埋まってないぞ?」
「でも、一緒に探してくれただろ。俺のこと笑わなかったうえに一緒に探すって言ってくれたの、十代が初めてだったんだよ」
すっげえうれしかったんだ。
そう笑う表情が、虹を見つけたときの顔そのまんまで、俺は反応に困ってしまった。
ヨハンはさらに反応に困ることを言い出す。
「俺にとって、レインボー・ドラゴンを一緒に探してくれた十代のほうが「宝」だったんだなぁって……」
「わああああああああああっ!」
これ以上言わせると、ものすごく恥ずかしいことを言われそうな気がして慌ててヨハンの口を塞ぐ。
「ふぁんらお、ふぁにひへんらお」
「何だよ、なにしてんだよ、じゃねえ! それ以上なんか言われたら困るんだよ!」
俺の手を外そうと躍起になるヨハンと、何がなんでも離すもんかと躍起になる俺を、再び現れたユベルがやっぱりあきれ顔で見下ろしていた。
――そうだよな。うん、大丈夫だ。
どんなことを受け入れなければならなくても、どんな業を背負うことになっても、虹の根元を一緒に目指したヤツがいたってだけで、ずいぶんと気持ちが楽になるモンなんだな。
俺がこれから目指す先にもしも虹がかかったら、その虹のたもとにはこいつがいるのかもしれない。
「はぁっ、死ぬかと思った」
「こんなんで死ぬかよ」
大げさに呼吸をするヨハンの背中を叩きながら、苦笑する。
「とにかく、俺にとって十代はそれだけ大事だってことだ。忘れんなよ!」
「忘れないよ」
それが、俺の生きる糧になるのだから、忘れられるわけがない。
*
(081030)