美しく立ちたいと思うたび



 字を書いてると、ついつい身体をかがめてしまう。
「十代、目が悪いのか……?」
 俺が机にかじりついているのが珍しいのか、ヨハンがカタログから顔を離して問いかけてくる。
「いや、別に悪くないけどさー。なんとなく」
 このままいくと、たぶん俺は寝る。間違いなく、寝る。
 それくらい机に目を近づけていたのだろうか。そんなことを思っていると、いきなり肩を掴まれた。
「どうせなら、もっと背筋伸ばせって」
 ぐい、と背もたれと背中がぶつかる。
「ぐぁっ! いってぇな、ヨハン!」
 この馬鹿力め!
 涙目で文句を言う俺に、ヨハンはしれっとしてこんなことを言った。

「お前さ、デュエルしてるときはすっげえ立ち姿きれいなんだから、それ以外でも姿勢よくしてたほうがいいぞ」

 ……立ち姿が、きれい?
 そうかぁ?
 わりと構えるし、ワクワクするデュエルでは姿勢なんて気にしたことないけど。

「カードをドローするときとかさ、すっげえきれいじゃんか。指がぴんと伸びてさ。爪とかきれいに切ってあるし」
 ……そんなところ、よく見てるな。
「俺、十代がカードドローすんの好きなんだよ。ってワケで」
 シャーペンを片手に固まっていた俺の右手がとられて、目の前のレポート用紙に置かれた。
「レポート書くときも、きれいな姿勢でいれば早く終わるかもしれないぜ?」
「そうかなぁ。姿勢くらいで早く終わるようになるとは思えないんだけど」
「いや、けっこう姿勢って大事だぞ。だらだらしながらやるとはかどらないもんだからな」
 なんだかうまいことだまされてる気がしないでもない。

「だからさ、早くレポート終わらせて、デュエルやろうぜ!」
「そっか。レポート終わればデュエルできるじゃん! よっし、俺がんばるわ!」
「……結局デュエルにつられるのか……」
 ヨハンの呆れる声に、口では言わないけど、ひとつだけ否定しておく。
 別に、デュエルだけにつられたわけじゃないぞ。
 デュエルするときの立ち姿がきれいってのは、俺からすればヨハンのほうだから、ヨハンがそんなこと言うならだまされてもいいかな、ってちょっと思ったんだよ。

 ……まぁ、これを口に出したら調子にのるから、言わないけどな!


*

(081029)




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