覚悟だってさ、馬鹿じゃないの
「……あのさ、十代」
間近に聞こえてきた声に、思わず身を震わせる。
「俺、けっこう傷つくんだけど」
「あ、わりい」
それでも、俺のからだはびっくりしたままで少し固まっている。別に、こうなりたいわけじゃないんだ。ただ、からだが思うとおりにならないだけで。
鼻先どうしが触れあうくらい近いと、どうもくすぐったくなる。でも、くすぐったいよりもびっくりのほうが勝っている今の俺の状態は、ヨハンにとっては気になってしまうらしい。
「なんかさ。キスされるのって覚悟いるよな」
別に、これが初めてじゃないんだけど、なんていうか、ものすごくどきどきする。
ヨハンからはいろんなキスをされてるけど、どんなキスでも正直いっていつも緊張してしまうのだ。
服越しにぎゅうっとくっついているから、俺がしゃべるとヨハンにも言葉以外のものが伝わってしまうらしい。
俺の言葉にヨハンはぴたりと固まって、それから瞳を伏せた。
「俺、十代をこわがらせてたのか?」
「いや、そうじゃなくて……。さらけ出すのって、ものすごい覚悟がいるじゃないか。それと同じ」
キスをされるたびにびっくりするのは、それだけ暴かれているからなのだろう。
『唇でキスするのは、一番薄い皮膚で触れあうってこと。つまり、それだけ近づきたいってことなんだぜ』
初めてキスされたとき、ヨハンがはにかみながら言っていたことを思い出す。
キスをするっていうことは、近づくこと。そして、さらけだすこと。
俺にとっては、ものすごく覚悟がいることだ。
ヨハンの緑色の目が開いて、いつかのようにはにかんだ。
「キスするほうにだって、覚悟がいるんだぜ」
同じように近づきたくて、同じようにさらけだす。
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
キスするほうもされるほうも、同じくらい覚悟をきめて唇に触れあうなんて。
「なんか、俺たちちょっと馬鹿みたいだな」
「そうだなぁ……じゃあ、こうしとくか」
お互いに苦笑して、いつのまにかその苦笑が吸い取られた。
覚悟なんてするヒマもなかった。
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4の付く日と倍数の日はキスさせてみようかな、な日です。
主に私が自重しません。(081004)