なまくら刀で縁切り
(4期終了後)
*
「あーあ、何で俺たちケンカしてたっけ?」
「わかんねぇ」
狭いアパートメントにぎこちないながらも和やかな雰囲気が戻ってくる。
一週間ぶりだろうか。
精霊達も安堵したかのようにリビングで寛いでいて、俺はすこしだけほっとした。
なんか、どうでもいいことでヨハンとケンカをした。
無言の応酬は一週間続いて、正直もう同居をやめようかと思っていたくらいだ。
「あのさー十代、箸売ってる店があったんだよ! 買いに行こうぜっ!!」
そんなときに、ヨハンが飛び込んできた。
満面の笑みで、ケンカをしていたことなんて綺麗さっぱり忘れたように。
「ああでも、アレはけっこう傷ついたな。『もうヨハンとは口聞かない!』ってやつ。お前子供かよ」
「ヨハンだって口聞いてこなかったくせに。同じくらい子供じゃないか」
久しぶりの箸をつかった夕食は、この一週間で一番美味しかった。
ついでに見つけた輸入食品の店で見つけた乾麺とめんつゆで、ヨハンの好物を作ってやった。……もりそばが好物なんて、手間の掛からないヤツだ。
「……あーあ。やっぱり口聞かないってのはつらかったぜ」
うまいうまいともりそばを箸で崩すヨハンに、俺も小さくうなずいた。
どうでもいいことでケンカして、その場の勢いで言ったひとことで、一週間なんとも気まずい思いをしたもんだ。
ものすごく痛いだけで、結局切ることなんてできはしないのだ。
「とんだなまくら刀だなぁ」
「ん、何か言ったか十代?」
「何でもないぜ」
まぁ、切れなかったおかげで、こうしていられるんだけどな。
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(081005)