往く哀切を惜しむ
(4期終了後。二人旅中)
*
もとから、荷物は多くはなかった。
それは、一人でいたころも、二人になってからも変わらない。
「良い街だったな」
「ああ。2年も居ちゃったな」
次の街に行く、と言った俺たちに、街の人たちはパーティを開くと言っていたけど丁重に断った。……そこまでされるほど、ここにいるつもりじゃなかったのに。ここはとても居心地が良かったのだ。
「でも、おかげでいろんな料理作れるようになったぜ」
ヨハンが増えたレパートリーをあれこれと数えだす。
「なのに、なんでおばちゃんたち変な顔したんだろ」
「味が変だったのかなぁ」
「えー、十代は普通に食ってたじゃんか」
実は、ヨハン自身気づいていないけど、ヨハンはものすごく独特な味覚センスをしている。それが幸いにも俺にも合っていたから今まで何も言わなかったけど、俺の味覚がおかしいって翔達が言ってた部分が全部ヨハンに当てはまる。いや、ヨハンはそれ以上に味オンチなんだ。おばちゃんたちがへんな顔したのもわかる。
そんな気候は寒くても温かな街だったけどいつまでも甘えてはいられない。
「やっぱり、寂しいかな」
お守り、ともらった木彫りの小さなキーホルダーを携帯のストラップ代わりにつけてみる。お、けっこういいじゃん。
「でもしょうがないさ。俺たちが選んだ道って、こういう別れをいくつも繰り返していく道なんだから」
ヨハンが世界地図を鞄から出して広げた。次はどこに行くのかを決めようというのだ。
風の向くまま気の向くまま、雨上がりの虹のかかる方角そのままに、俺たちは旅をしているのだった。
「でも、こうして別れを寂しく思うのは、必要なことだ」
ヨハンがぽん、と俺の肩を叩く。
「ああ。わかってる」
俺たちが惜しんでいるのは、旅立ちの別れだけじゃない。いつか再びこの街にきたとき、誰も知る者がいなくなっているということだ。
それだけの別れを俺たちは今までも、そしてこれからもいくつも経験していくのだろう。
でも、それに慣れてはいけないことを、隣にいるヤツが教えてくれているうちは、まだ大丈夫。
「じゃ、行こうぜ十代」
「ああ」
何もなくなった部屋の鍵をかけて、ポストに鍵を忍ばせた。
*
(081007)