守りの接吻



 今まで、ヨハンとはたくさんのキスをしてきた。
 そりゃもう、身体じゅう、俺から見えないところから思い出しただけでも顔から火が出そうになるほどの恥ずかしい場所まで。いくつものキスをして、されてきた。
 でも、ただ一箇所だけ。

「……ちょっとタンマ」
「えー」
 ヨハンからのキスはときどき突然にやってくる。
 その突然のときこそ、俺には死守しなければならない場所があった。
「そこだけはダメだって言ってるだろ」
 掴まれていないほうの手でヨハンの顔を掴んでやる。さすがに顔全体は掴めるわけがないから、鼻と唇を手のひらで覆うように、ついでに両側のこめかみに指がおさまるように……力を入れれば、たぶん痛いだろう……すると、手のひらに不満じみた声が反射した。
「なんでダメなんだよ」
「ダメなものはダメなんだよ」
 ぐ、と指に力を入れると「わかったわかった!」とヨハンの手が俺の手を解放する。それを確認してから、俺も左手の力を抜いてヨハンの顔を解放してやった。
「ちぇー、なんで指は良くて手の甲はダメなんだよ」
 解放されるやいなや、ヨハンの口から改めて不満の言葉が漏れた。

 しょうがないだろ。
 右の手の甲は。

『僕なんか、そこしか許されてないけどねぇ』
 同じく不満の言葉を漏らしながら、俺の横にすぅっと現れたユベルに、ヨハンの表情が変わる。
「当たり前だろ。俺も許さないぞ」
『なら、文句言うんじゃないよ』
 フン、と鼻で笑うユベルに、ヨハンの纏う空気が冷え冷えとしたものになる。……こいつらは。

 右の手の甲は、ユベルが初めて『俺』に触れた場所なのだと言うから。
 だから、ここだけはユベルのための場所なのだ。
『他はいいよ。でも右手の甲だけは、僕にちょうだい』
 これ以上望むのは贅沢だけれど、これだけは譲りたくない。
 そう願う声に、応えたのだ。

「あーもう。ヨハン、ちょっと顔貸せ」
「はぁ?」
 いまだに冷気を纏いユベルをにらみつけているヨハンの顔をこちらに無理矢理向けて、顔を近づける。

『本当に、十代は甘いんだから』
 呆れながら消えてゆくユベルの声を聞きながら、ヨハンの顔のどこからキスをしてやろうかと考えた。


*

え、13日なのにチューさせるの!? と思ってユベルに登場していただき寸止めにしちゃいました。(081013)




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