天の火を待ちながら



(4期終了後・なぜかアークティック校)

*

 寒空に、花が咲く。
 冷えた空気から首筋を守るマフラー、寒さに慣れていない手を温める手袋を借りて、俺はその花々を眺めていた。
「すっげえだろ?」
 隣に座っていたヨハンが自慢げに鼻を鳴らす。
「そうだな」
 ヨハンの顔は見なくたってどんな顔してるかわかるから視線も向けずに花火を見続けていたら。
「十代、こっち向けよ」
 花火の代わりに、ヨハンの翡翠の瞳が飛び込んできた。


 ひょんなことから『仕事』でたどりついたのは、雪原のどまんなかに建っている建物だった。
 あれ、何でだろう。見覚えのある精霊が。
『るびー!』
 ハネクリボーに向かって飛び込んできたルビーに、俺はその建物がなんなのかを把握する。……アークティック校って、こんな寒いところにあったんだなぁ。
「せっかく来たんだし、今日は花火あるからさ、見て行けよ! あと、俺とデュエルしてくれよ!」
 ルビーを追って現れたヨハンは、俺が返事する前に手をぐいぐい引いて学園の中へと突き進んでいく。
「なんだよ、手が冷たいじゃん」
「寒いんだよ!」
「なんだぁ。じゃあ、俺の手袋とマフラー貸してやるよ。俺使わなくても寒くないし」
 ……たしかに、この寒さなのにヨハンは出会ったときと同じ制服だけの姿だった。……よく見れば学園の生徒みんな制服だけだよ。こんなに寒いのによく暮らせるなぁ。

 仕事……ここの校長に手紙を届けるのが仕事だったのだ……を終わらせた俺はさっそくヨハンにデュエル場に連れ込まれた。なんで、ギャラリーこんなにいるんだよ。
 状況を飲み込めないうちに始めたデュエルはものすごく盛り上がった。
 あったかいシチューをごちそうになって、みんな外へと飛び出していくのを眺めていると、
「十代、花火見ようぜ!」
 俺も、ヨハンに今度は屋上に連れ出された。ちゃんと、マフラーと手袋を借りて。

 寒空にあがる花火はとてもキレイで。
 寒さを忘れることはなかったけれど、隣のヨハンがやたらとくっついてくるから、凍えるほど寒くはない。……遭難したときに人肌で温めるのがいいっていうのは本当なんだな。
「十代、花火じゃなくて俺を見ろって」
「花火見にきたんだろ」
 それで外に連れ出しておいて。
「次の花火まではもうちょっとあるぜ」
 花火をあげるタイミングは決まってるんだ、とヨハンは笑う。
 他の学生たちは外で思い思いに花火を見ているけれど屋上は俺たち以外誰もいない。まさか、ここ立ち入り禁止とかだったりするのか?
 ぎゅっと、手袋越しに手を握られる。
「だから、花火あがるまではさ」
 翡翠が近づいて、唇に冷たいモノが触れる。
 やんわりと温かくなる感触に、人肌の偉大さを感じた。


*

(081020)




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