定時に会いましょう



「アニキ、最近早起きじゃないっすか?」
 午前中の講義の終わり。昼食……トメさんが作ってくれた弁当だ!……を持って屋上へと行こうとした俺を、翔がこんな言葉で呼び止めてきた。
「そか?」
「そっすよ。今までだったらボクが起こしても剣山くんが起こしてもちっとも起きてくれなかったのに、最近ボクたちより早く学校に来てるっす」
 何かあるんすかー?
 なにやら疑いの目をこっちに向けてくるけど、俺にはなんのことやらさっぱりわからない。
 ……まぁ、心当たりがないわけじゃないけど。
「しょうがないだろ。目が覚めるんだからさっ。じゃあなっ!」
「あ、アニキー!?」
 ひょい、と弁当を持って入り口へと走り出す。翔には悪いけど、昼飯食べる時間って、貴重なんだよな。

 軽い足取りで階段を昇っていく。
 一段一段のぼるたびに、翔に言われて思い出したことをぼんやりとふりかえってみたりする。

『じゅーだーい、おっきろよー!』
 ばさっと布団を剥がされて無理矢理たたき起こされたのは、いつのことだろう。
『よーはーんー! ……もちょっとねるぅ……』
『何いってんだよ。朝は待っちゃくれないんだぜ! ほらほら、早く起きろって!』
『おまえ、なに三沢みたいなこと言って……』
『みさわ? だれだ、そいつ?』
 俺の愛しい布団を奪ったにっくき相手は、俺のからだを無理矢理起こすと、今度はがくがくと揺らしてくる。
『うわ、やめ……っ!』
『早起きしたら、一回デュエルできるじゃん。だから早く準備しろってー』
 ヨハンの手から解放された俺は、もそもそと起き出して、早く早くと急かすヨハンを相手に、寝ぼけ眼でデュエルをするはめになって……まぁ結果は、わかるだろ。

「アレはほんっと、くやしかったよなぁ」
 毎朝6時に人をたたき起こしてくれるあるときは同室、たまーにブルー寮の留学生にある意味不意打ちで負けてしまったのは本当に悔しくて。これはもうしっかり起きなければ、とヨハンが起こしに来る前から目を覚ますようになってしまったのだ。
 朝6時から、一回デュエルをしてご飯を食べて学校に行く生活は、とても健康的だと思う。
 ……授業中は眠くてしょうがないけどな。

「なにが悔しいって?」
 一足さきに屋上に来ていたヨハンが声をかけてくる。そろいの弁当箱なのは朝、一緒にトメさんにもらったからだ。
「ん? ……なんでもねぇよ」
「なんだよそれ」
 教えろよー、と言ってくるヨハンを軽くかわしながら、俺はトメさんの作ってくれたエビフライにかじりついた。
「明日になったら、教えてやるよ」

 明日の朝6時。
 また朝のデュエルをやる、そのときに。


*

(081025)




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