昇っては降り注ぐもの
(4期終了後)
*
早い冬の風が吹いてくる港。国と国を行き交うには小さいフェリーに揺られて揺られて、俺たちは次の街にたどり着いた。
一つの街に住むのは長くて2年。それ以上いると、姿の変わらない俺たちに疑問を抱くヤツが出てくる。
長くいたら、それだけ離れた街を次のすみかにする。基本的に風の向くまま気の向くままだけど、精霊が呼んでるならその限りじゃない。
「おにいちゃんたち、バイバイ!」
船で知り合ってデュエルを教えた子供達が手を振りながら、親に連れられてそれぞれの目的地へ消えていく。この街に住んでいる者、親戚がいる者、さらに次の船にのって別の街に行く者。港は、たくさんの出会いと別れを海に溶かしていく……なんてかっこつけてしまった。
「なんだよ、何ニヤニヤしてんだよ」
隣に立っていたヨハンが俺を気味悪い目で見てくる。おまえこそなんだよ、何見てんだよ。
「いや、こうやって、人と人の出会いと別れは海に溶けていくものだなぁって思ってさ」
「お、十代にしては詩人だな」
「俺にしては、って何だよ」
フェリーが出航していくのを何となく見送りながら、俺たちはどうするわけでもなく港にたたずむ。いつもならすぐに街の様子を見に行くのだけれど、なんだかそんな気にもなれない。
「まぁ、人と人の出会いは水物だっていうし、海に溶けていったっておかしくないよな」
ヨハンが「十代にしては」と言いながら同意してくる。ちょっと珍しいぞ。
「海の水ってさ、蒸発して空にどんどん昇っていくだろ。そうしたら、空は泣いて雨を降らせる。雨は海に落ちたり地面に落ちたりしながら、結局最後はまた海に戻っていく。……そう考えたら、人と人が出会って別れて、また出会うのって、水と同じだよなぁって思うんだ」
そういえば、俺たちは何度出会いと別れを繰り返して、一緒にいるようになったのだろう。
周りだけが年をとっていくなか、俺たちだけがかわらない。
まるで水のめぐりのようになんども出会っては別れて、再び出会って。
そのたびに、俺は海にひとつひとつの出会いを溶かしてきたのかもしれない。
海はとても広いから、水がめぐった場所で会える可能性は本当に少ない。
俺たちはお互いを探していたわけじゃない……基本的に、俺たちは鉄砲玉のようだった……から、再会してもずっと一緒にいようと決めていたわけじゃない。
だから、今ここで、別れてしまうことだって十分にありえるのだ。
「でもまぁ、俺たちはとりあえず水物じゃないしな」
よし、とヨハンが地面に置いていた鞄を持ち上げる。
「だな」
俺もリュックを肩に背負って、あたりを見回す。
気がつけば、行く先が一緒になっていた俺たちは自然とこうしている。
またいつか、道が分かれてしまうことになるかもしれない。
そうしたら、また海に別れをひとつ溶かして、めぐり会うのだろう。そして、今度は出会いをひとつ溶かす。
この街は住みやすい場所だろうか。
どんな出会いと別れがあるだろうか。
そんなことを考えながら、俺たちは港から繁華街へと向かう。
たくさんの出会いと別れを溶かした海からの風が、俺たちを街へと追い立てていった。
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(081027)