誰かが君を抱きしめるのか



 俺とあいつは、別のいきものだ。
 そりゃ、どんなものだってまるっきり同じいきものなんていないけれど、俺とあいつには決定的な違いがある。

『大人』になった代わりに、俺はこれ以上の時の流れを共有することはできなくなった。
 春が来て夏が来て秋が来て冬が来て。それを何度も何度も繰り返しても、俺は今のまま……当分の間は姿を変えることはない。
 それを悲しいとか、悔やんだりとかはないけれど、ただ、ひとりなのだ。
 誰かの中に紛れれば孤独は和らぐのかもしれないけれど、結局はその中にずっと紛れ続けることはできないから、最後には孤独になる。


「俺は、誰かが十代を抱きしめるなんて想像はしたくないぜ?」
 ぎゅっと、声をどこか震わせたヨハンがきつく抱きついてくるから、その肩をぽんぽんと叩いてやる。頭を撫でたら「子供扱いするな!」と怒られそうだから、したくないのだ。
「そんな想像するくらいなら、このまま手放したくない」
「無茶言うなよ、ヨハン。……とりあえず最後のレポートは提出に行かせてくれ」
 まさかとは思うけど、クロノス先生に抱きしめられるとか想像してないだろうな、こいつ……。
 卒業のためとはいえ、これ以上ないくらい机に向かった。退学を考えたこともあったけど、結局、卒業できるようだ。
 あとは、俺にしがみつくこいつをどうにかすれば……いっそこのままアカデミアまで行ってしまおうか……逆コアラ、恥ずかしいだろうな。
「俺はたぶん、誰からも抱きしめられないよ」
 さすがに逆コアラは可哀想だから、あっさりと腕の力が弱まるだろう一言を告げてみる。
「誰かの隣にいることはあっても、抱きしめることだけは、させない」
 きっと、置いていく方も、置いて行かれるほうもつらい道を俺は進んでいかなければならないのだ。後戻りもできない。
 ヨハンの腕があっさり……とはいかなかったけど、俺から離れて。

「なら、俺だけは、お前を抱きしめるから。イヤだっていっても、見つけたら絶対に抱きしめてやる」

 まるで決意表明のように朗々と宣言してきた。
「……まぁ、いいさ。でも、コアラのまねごとはやめとけよ。恥ずかしいから」
「なんだよコアラって!」
 俺の決意をあっさりと鈍らせようとする、こいつを。
 誰かがヨハンを抱きしめる想像を、俺だってしたくないんだ。


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拍手御礼SSでした。(081102)




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