君はあるひとつの幻を見続ける
それは、明るい夜空を切り取るもの。
幾重にもそびえ立つ人工物は所々に明かりを散らして天を目指していくかのよう。
そして、ひときわ高い建物のてっぺんから、地上を見下ろすモノがひとり。
その名は――。
「……ってさ、ヒーロー達に出会う前は考えてたわけだよ」
明るい夜空を切り取ったビル群。その摩天楼の一角……ひときわ高い建物のてっぺんから地上を見下ろしながら、俺は隣に座るヨハンに語りかける。
「だからさ、ヒーローの活躍の場っていったら、やっぱり摩天楼なんだよなぁ!」
大事に持っているデッキの中からカードを取り出して、そっと絵柄をなぞる。
「Eヒーロー、かっこいいもんなぁ! 俺も、十代のデュエル見たときはすげぇって思った!」
俺のカードを覗き込んで目を輝かせるヨハンに、俺はカードを貸してやった。
「いいのか?」
「ああ、ヨハンにならいいぜ」
「やりぃっ!」
絵柄とは違う摩天楼だけど、こうしてヒーローのように高い場所から地上を……守る人たちを見守るってのは、なんだか身が引き締まる思いだ。
風は強いけれど、俺たちにはそんなことは全然気にならない。
初めてソリッドビジョンで見たモノリスによって切り取られた空には本当にわくわくして。
ああ、そういえば。それが、始まりだったのかもしれない。
「やっぱりさ、十代っていえばヒーローだよなー」
「そう言われると、照れるぜ!」
こうやって、摩天楼の中にそびえ立つ幻を見続けているかぎり、俺は俺でいられるのだ。
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拍手御礼SSでした(081102)