野ばらが攫っていったので
『はぁ』
背後の気配だけで、ため息をつかれているのがわかるのがなんとも切ない。
「何ため息ついてんだよ、ユベル」
『なに、ちょっとね』
いつも以上に狭い俺のベッド。その半分を陣取る天色の髪は触ると意外とふわふわしている。
ひょんなことから再会して、泊まる場所もないからととりあえず家に泊めた。
「これ、泊めてくれる礼なっ!」
と、綺麗だと摘んできたらしい花を手渡してきた、それが今ベッドサイドにペットボトルを花瓶代わりに置かれている花だ。
『野ばら、ねぇ』
ユベルの口から、聞いたことあるようなないようなメロディと、絶対に聞いたことのない単語がこぼれ落ちてくる。
『本当に無意識にやってるとしたら憎ったらしいよ』
……何言ってるんだ、ユベル?
ユベルがぶつぶつ何か言ってるのを聞きながら、俺の腰に腕を回しているヨハンを見下ろす。……起きられない。
「まったく、俺、起きたいってのに……」
額にかかる髪を払ってやると、くすぐったそうに顔に笑みを浮かべる。なんだか見ているこっちまで笑ってしまう。
『まったく、すぐに十代を攫っていってしまうんだから』
そんな俺を見て、ユベルがまた不機嫌になったようだけど、何でだ?
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拍手御礼SSでした(081102)