嘆きあうふたりを隠してください



 霧が深い。

「これってさ、夢だよな?」
「だろうなぁ」
 どこまでも続く白い霧の世界。
 もやもやもやと手をつないでいなければ互いを見失ってしまうほどだ。
「なんで、こんなところにいるんだろうな」
 声だけを頼りに会話をする。相手の顔はこちらからは見えない。
「わっかんねぇよ」
 すん、と小さく鼻を鳴らす音。

 さむいわけでもないのに。
 ああそうか、俺と同じか。

「なぁ十代、お前の顔が見えないんだけど」
「俺もだぜ、ヨハン」
 いつもならすぐに顔を突き合わせようとするのに、お互いにそうしようとは思わない。
「ちゃんと、いるよな?」
「いるよ」

 霧がいちだんと深くなる。

「そっか、いるんだ」
 ヨハンが鼻を鳴らしながら、つぶやく。

 ……いつもだ。
 いつも、別れた日の夜は霧が深い場所の夢を見る。
 俺が姿を消したときも、ヨハンが姿を消したときも同じ。
 この夢を見てお互いに思うのだ。――ああ、行ってしまったんだな、って。

 絶対に泣かない俺たちの涙が形を変えた霧は、俺たちの本心をうまく隠して立ちこめ続ける。
 いつか、晴れる日を夢見ながら。


*

拍手御礼SSでした(081102)




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