瞼に風を描けるように
風の向くまま、気の向くまま。
俺は、風の行く先にすべてをゆだねて生きている。
「……まさか、あのトラックとここでお別れとは思わなかったなぁ」
「しょうがないだろ。俺たちは大きな道路を歩いてるわけじゃないんだから」
「……っと、次はどうするかなぁ」
道路地図を眺めながら首をかしげる俺の隣で、ヨハンは世界地図を黙って眺めていた。
「ヨハン、ずっと思ってたんだけどさ、何で世界地図なわけ?」
本当にたまーに、こっそり使う交通手段では世界地図を使わないわけではないけれど、ヨハンが世界地図しか持っていないというのには驚いたものだ。
「どこに行くかなんて風の向くままなんだからさ、そのへんの地図なんて現地で買えばいいんだよ。そのほうが情報も新しいだろ」
「だけどさぁ」
ぼろぼろの世界地図は、いったい何分の一スケールなのだろう。よく、子供の部屋に貼ってある勉強用ポスター……ヨハンの母国語らしいから、ちょっとカッコイイのは認める……のサイズなのだ。
「それにこうやって世界地図を眺めてるとさ、どこにだって行けるって思うじゃないか」
俺たちは風の行く先にすべてをゆだねて生きている。
その先には求めているものが、俺たちを求める存在がいるってことで、そうして俺たちは一歩ずつ夢の実現へと近づいていくのだ。
……ってことは。
「じゃ、その世界地図には夢が詰まってる、ってわけだな?」
「そ。この地図のどこかで……本当はここにも載ってない世界の精霊達が呼んでるかもしれないんだぜ。すっげぇわくわくするじゃないか!」
「そうだな……!」
地図をたたんで、俺たちは歩き出す。
このへんは車通りも少ないけど、国を渡るトラックが来れば乗せてくれるだろう。それまでは、少しでも距離を稼がなければ。
すべては、瞼に描いた風のままに。
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拍手御礼SSでした(081102)