永遠なんて知らないままで
俺が生きてきた時間は、永遠なんてほど遠い。
「なんでさ、人間って『永遠』が欲しいんだろうな?」
永遠の若さとか、永遠の命とか。
『さぁ。自分が永遠じゃないと思っているから、だろうね』
号外で出ていた新聞を握りしめて、ゴミ箱に捨てる。
デュエルモンスターズのカードの窃盗を繰り返してきた男がついに逮捕されて、そいつの目的が『カードの精霊とやらの力で永遠の命を手に入れる』って供述で、周囲を驚かせている、という記事だった。
ていうか、『とやら』で人のカード盗むなよな。世界中で数々のレアカードが盗まれた、って大ニュースになったほどだ。
「影丸のじいさんが昔そんなこと考えたけど、結局まだまだ元気そうだもんなぁ」
先日会ったときにはさすがに寝ている時間が増えた、とは言っていたけど。それでもいまだ現役だもんな。
それにしても。
『僕も君も、それから他の存在も、どれだけの時間を生きることになるかわからない。それは、どんな存在だって、形あるモノは同じだというのに』
ばかばかしい。
ユベルの視線がゴミ箱に向くと、俺が投げ捨てた新聞紙だけがぼっと燃えた。
「おい、ゴミ箱を火事にすんなよ」
『僕はそんなヘマはしないよ』
既にゴミ箱自体から興味をなくしているユベルが、ぼんやりとつぶやくのが、聞こえた。
『永遠に存在するモノなんて、何もありはしないのさ。憎しみも願いも呪いも祈りも、必ず終わりはくる。……ただ、それを覚えているモノが別の形でつなげていくから、永遠と錯覚しているだけなんだ……、って今は思うけれどね』
俺からすれば永遠に近い時間……それでも決して永遠ではないのだ……をすごしているユベルの言葉はやけに重くて。
「変わらない思いを抱き続けることは、ものすごいエネルギーを使うってことなんだな」
人の心は変わるなんて言うくらいだから、それを変えずにいる……永遠を目指そうとする……って、とんでもないことだ。
『当たり前じゃないか。それが世界を回しているんだから。……だから、君とあいつは何度だって出会うんだろう?』
いきなり出てきた何度か再会しては別れている奴の名前に、俺は首をかしげた。
「なんでそこでヨハンが出てくるんだよ」
『何でもない』
ぷい、とふてくされて姿を消していくユベル。その向こうに、見覚えのある天色の髪が揺れているのが見えた。
「あれ、十代じゃないか!」
「……なるほど」
*
拍手御礼SSでした(081102)